シルキーシックスの系譜ーBMWはなぜV6エンジンを作らないのか?


BMWの正式名称は「Bayerische Motoren Werke AG」、日本語に訳すと「バイエルン発動機製造株式会社」という意味です。
社名に「発動機」、つまりエンジンと冠するだけあって、BMWがエンジンにかける情熱、こだわり、プライドは相当なもの。
それはBMWはシルキーシックスと呼ばれる直列6気筒エンジンにこだわり、これまでV6エンジンを開発したことがないところにも表れています。
では他メーカーが続々とV6エンジンに切り替える中、なぜBMWは頑なにV6エンジンを作らないのでしょうか?

そこで今回は

  • BMWはなぜ直6エンジンにこだわるのか
  • V6エンジンを作らない理由
  • シルキーシックスの系譜
  • シルキーとは対極の獰猛な直6!究極の「S型」エンジン

といった内容をくわしくお伝えしてまいります。

完全バランスの直6エンジンがもたらす「絹」の質感!


BMWが直6エンジンにこだわる理由を探るために、まずは直6エンジンのメリット・デメリットを見てみましょう。

直6エンジンのメリット

完全バランスによる振動の少なさ


直6エンジンは一列に並んだシリンダーがお互いの慣性力と偶力を打ち消す「完全バランス」型のエンジンなため、振動が非常に少なく、スムーズな回転を実現することが出来ます。
BMWのエンジンが「シルキーシックス」と呼ばれるのは、この直6エンジンの特性によるところが大きいのです。

エンジンの左右に余裕があり、過給器によるパワーアップがしやすい


縦に長い直6エンジンは、エンジンルームに縦置きすると左右に空間が空きます。
そのためその空間にターボチャージャーなどの過給器を配置しやすく、パワーアップがしやすいのです。
最新のM3/M4に搭載されている「S58B30A型」エンジンでも、直6エンジンに2基のターボチャージャーを組み合わせ、「510ps/650Nm」(M3/M4 Competition)という途方もないパワーとトルクを発生しています。

直6エンジンのデメリット

エンジン全長が長くフロントが長くなりがち


直6エンジンは縦に長いため、エンジンが収まるボンネット、フロント部分も長くならざるを得ません。
そのため昔のスポーツカーの様にボンネットが長くキャビン(車内空間)が短い「ロングノーズ・ショートデッキ」とするか、ボディ全体を大きくして車内空間を稼ぐ必要があります。
現代の車に求められる、「ボディはコンパクトに、室内は広々と」というリクエストには対応しづらいのです。

衝突安全性への対応が難しい


直6エンジンを縦置きにすると、エンジンルーム内の縦方向の空間に余裕がないため、「クラッシャブルゾーン」を作ることが難しくなります。
そのため車内・車外の人員への衝突安全性を確保することが難しくなるのです。

V6エンジンではあの回転フィールが出せない!


直6エンジンを3気筒ずつにわけ、V型に組み合わせたのがV6エンジンです。
エンジンの全長は3気筒分しかありませんからコンパクトで、エンジンを縦置きしてもクラッシャブルゾーンを確保できるため、衝突安全性への対応も比較的容易にできます。
ただV6エンジンでは完全バランスを実現できないため、直6エンジンのような滑らかな回転フィールを出すことは出来ません。

直6メリットを更に磨き上げた「シルキーシックス」


BMWはその社名の通り、エンジン屋です。
そのため滑らかに回転するエンジンのフィーリングを最優先させたいと考えました。
直6エンジンのネガティブな部分である「大きさ」や「衝突安全性への対応」といった部分は技術力でカバーし、直6エンジンのメリットを更に磨き上げた「シルキーシックス」を作り上げたのです。

シルキー6の系譜

元祖シルキーシックス!「ビッグシックス」


本来「シルキーシックス」とは、「世界一美しいクーペ」と呼ばれた初代6シリーズ、630CSや635CSiに搭載されていた、3.0Lまたは3.5LのSOHCエンジン、いわゆる「ビッグシックス」のことを指します。
6シリーズクーペに試乗したモータージャーナリストが、エンジンの吹け上がりや回転の滑らかさに感動して「これはまるでシルク(絹)のようだ!」と表現したのがその始まりです。

その他にも、

  • 1968年に登場した2800CSに搭載されていた2.8リッター直6
  • それを発展させ1971年3.0CSに初搭載された3リッター直6

を含むという説もありますが、いずれにせよ1960年代後半から1980年代末までの「ビッグシックス」と呼ばれる2.5~3.5リッター直列6気筒エンジンが「シルキーシックス」の始祖であることは間違いありません。

「シルキーシックス」のファン拡大に貢献した「スモールシックス」


その後1990年に入ると、DOHC化された2~2.5リッター直列6エンジン「M50型」が登場します。
こちらは「ビッグシックス」と比べると排気量が小さいため、「スモールシックス」と呼ばれました。
「ビッグシックス以外はシルキーシックスとは認めない!」とおっしゃるファンの方もいらっしゃいますが、このスモールシックスは明らかにビッグシックスの滑らかな回転フィールを受け継いでおり、その「絹の質感」をより親しみやすい価格で提供し、シルキーシックスのファン拡大に貢献したのです。

シルキーとは対極の獰猛な直6!究極の「S型」エンジン


ビックシックスの頃の直6エンジンはMで始まる「M型」、現在の直6エンジンはBで始まる「B型」ですが、BMWにはこれらのエンジンとは出自の異なる直6エンジンが存在します。
Mモデルに搭載される「S型」エンジンです。

Mモデル専用のS型


S型エンジンは、レースに出場するためのホモロゲモデルだった初代M3から採用されたエンジンです(ただし初代は4気筒)。
サーキットを主戦場とするだけあって、S型はとにかくレーシーでパワフル!
その高回転型の性格も相まって、通常のM型やB型とは一線を画します。
だた「シルキーシックス」では決してありません。
筆者はE46のM3に乗っていましたが、常に「ガウガウ」唸っている、まるで猛獣のようなエンジンでした。
「ワイルドシックス」というべきかもしれません。

2代目M3

 

  • S50B30型
  • S50B32型

初めて直6となったS型エンジン。
当初は3.0Lでしたが、後期モデルでは3.2Lに排気量が拡大され、リッターあたり100psを超える321psを発生しました。

3代目M3

 

  • S54B32型

最高出力の343馬力は7900回転で発揮される超高回転型。
NAの直6エンジンの頂点です。

5代目M3

 

  • S55B30A型

4代目のM3ではV8エンジンが採用されましたが、5代目になり直6が復活。
ツインターボ化され、431psを発生しました。

6代目M3

 

  • S58B30A型

最新のM3に搭載されるのは、BMW史上最強の直6エンジンです。
実に510psのものパワー、650Nmものトルクを発生させる、BMWの技術の粋を結集したものになっています。

直6エンジンはBMWのアイデンティティ


時代の波に押され、他メーカーがV6エンジンを搭載しはじめても、BMWはかたくなに直6エンジンを守り抜いています。
エンジン屋「バイエルン発動機製造株式会社」としての矜持、BMWのアイデンティティ。
そんな熱い想いがある限り、BMWはこれからも直6エンジンを作り続けていくはずです。

ライター情報

BMW Column編集部

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